そんなにデータは重要?(出版社の内情5)
出版社は「ばくち産業」、「ギャンブル性が高い」、「会社員でありながら、事業家のにおいがする」などの意見を伺います。
しかし様子が変わってきています。
「どんぶり勘定」から「データに基づく管理」へ変わってきたのです。
多くの書店は売上、配本、返品、実売、店頭在庫データを開示しています。
書店がデータを開示することは、状況をガラス張りにすることですが、英断だと思います。
なぜならば出版社にとり書店のデータは、販売戦略上おおいに役立っているからです。
ですがデータを過信すると、「冒険をしない」、「弱気になる」、「守りに入る」などの言い訳の材料にもなります。
現場で「自分の見たものしか信じない」、「経験則」も大事なファクターとなります。
実売データはあくまでも過去の結果であり、未来に反映することができても現在に生かせる可能性は低いのです。
いっぽう書店では店頭在庫の状況が分かり、お客さまが検索機で本を探すことにより業務の軽減につながっています。
以前は、書店で目当ての本が探しきれない時に書店員の力に頼っていました。
しかし、期待していた本の内容とミスマッチが生じる場合もあります。
せっかく書店員さんが本を探してくれたため、購入しなければならないという心理状況に陥いっていたのです。
現在は自分自身で検索機で本を探すことにより、安心して本を選ぶことができ心理的負担もなくなりました。
データ開示により、業界内がスムーズに業務が進行するための新しい取り組みもおこなわれています。
たとえば、企画書を審議する際に類書の売れ行き動向を分析して、出版するか否かの参考にしています。
編集者の中には、出版する企画のネタ探しに活用しています。
出版社はデータを分析して、売れる本の企画や販促ツールとして生かせるかが鍵を握っているのです。
本を売るための攻防(出版社の内情4)
新刊を販促するに当たり取り決めることは、多くあります。
「初版部数」、「書店への配本数と店舗数」、「帯」、「パネル」、「広告を掲載する新聞、交通広告」などがあります。
取り決める販促会議では、議論が絶えません。
たとえば重版部数を決める時は、営業マン(外勤者)とデータマン(内勤者)との間で意見がぶつかります。
重版部数を決定するのは、データマンです。
営業マン:「レジ前に陳列しているから週50冊は売れる!」
データマン:「返品部数を考えているのか?」
営業マン:「この書店が起点となり全国へ広がる。今重版しないと機会損失につながる」
データマン:「データを見たのか?週売は5冊だ!3カ月後に返品になる」
営業マン:「データだけで判断をするな!在庫が潤沢にあればさらに売れる!」
データマン:「ふざけるな!絶対に重版はしない!」
営業マンVSデータマンとのやりとりです。
営業マンとデータマンとは、意見が合わないことが多いのです。
本には、「売れるタイミング」があります。
今日売れていた本が、翌日に売れなくなることも良くあるのです。
営業マンは、「より良い陳列場所を確保するため」、「さらに売上を伸ばすため」にデータマンに訴えます。
データマンは、「返品率を重視しながら、過剰在庫にならないため」に本をコントロールします。
最終的には1冊の仕上がり(適正販売部数)を重視します。
データマンである重版担当者の気持ちも分かります。
しかし重版を細かくし版を重ねることも必要ですが、大ヒットの本に育ちません。
実際に重版を渋っていた本が、重版を繰り替して30万部を突破した実例もあります。
さらに日の目を見なかった本が、他出版社から出版されてベストセラーになった本もあります。
発売後即重版をした本の出来上がる日が遅く、売れ行きが鈍くなったこともあります。
重版した本を書店へ搬入しましたが、販売機会を逃して返品につながったのです。
重版に正解はありません。
「経験」と「勘」を生かし、時として勝負をする本もあります。
営業マンとデータマンには、立場の違いにより乖離があるのは当然です。
ただいえることは営業マンは納得した重版部数が決まれば、必至に販促をします。
売れている本を、さらに売り伸ばしているのです。
これが本来の販促の姿なのです。
義理と人情の世界(出版社の内情3)
古い体質ではありますが、やはり「人ありき」の業界です。
たとえば同じ著者の本を違う出版社から出版する場合、著書の動向を教えてもらう場合があります。
出版後の「売れ行き」、「重版部数」、「在庫数」、「返品数」、「実売数」までを教えてもらいます。
聞く方は、懇親会や会合などにて面識がある人が良いのです。
面識がなく教えてもらうことも可能ですが、面識があった方がスムーズにことが運びます。
以前部下が面識のない営業マンに対して、発行部数を聞いてこっぴどく叱られたことがありました。
突然、面識のある出版社社長から電話があり「御社の○○さんは失礼ではないか」、「山本さんだから、教えているんだよ」と大目玉をもらったことがあります。
本来ライバル会社に販売動向を伺うことは、他業界ではあり得ないことです。
銀行から転職して来た役員に聞いてみましたが、「銀行ではあり得ないこと」といっていました。
同様に単行本は同内容を文庫にて、他出版社から出版をする場合があります。
その際に面識ある営業マンに連絡を取り、販売状況を教えてもらいます。
通常は、単行本を発刊した出版社から出版されますが、著者の事情や編集者同士のやりとりによって決まることもあるのです。
出版社からすれば、1冊の本にて2度商売ができるメリットがあり頻繁におこなわれています。
さらにサイン会を書店で実施する場合は、営業マンが近隣書店へ挨拶に行きます。
サイン会開催を知らせずに実施することも可能ですが、お互い気持ち良くするための配慮です。
サイン会をする書店の売上は上がりますが、近隣書店は売上がありませんからね。
サイン会に限らず言葉で商売をしている関係上、日頃のコミュニケーションを大事にしている業界なのです。
出版業界は「義理と人情の世界だなぁ」と、飛び込んで分かるまで時間はかかりませんでした。
面白い業界なのです。
出版社で驚いたこと(出版社の内情2)
通常の出版社は、勤務時間が不規則です。
「ほぼ家に帰らず1年中会社にいる猛者」
「徹夜明けで朝帰りをする女性」
「懇親会後、会社に戻り赤ら顔で業務をする方」
「直行直帰の営業マン」
など色々な人がいます。
ある面人材の宝庫です。
自由度が高い分、「自己管理能力」が問われます。
人と人のつながりで業務が成り立っているため、コミュニケーション能力(雑談を含め)の高い人が多いのです。
1つの議題を1時間以上、話し続ける人もざらにいます。
コミュニケーションといえば、「お酒」は欠かせません。
業務上、懇親会、パーティー、宴会が多く、仲間意識が強いためムラ社会であるといわれています。
「自己管理ができるか、できないか」、「業務を納期までに仕上げられるか」この2点がクリアできる方が出版社向けの方なのです。
自由度が高い分、好きなことをしているので時間に関係なく、業務を遂行している人が大半なのです。
特に編集者は朝に業務を終え一旦帰り、昼頃に出社する人も珍しくありませんからね。
さらに出版社は、「不夜城」です。
特に編集関連の部署は正月でさえ、電気が点灯しています。
「情報を商売」としている以上、必然です。
Webにある情報以上の「ネタ」を収集することが必須であり、常に「スピード」が求められています。
あとね、出版社に入社当初、編集者の服装がラフなこと、営業マンは基本スーツであることに違和感を持っていました。
編集は自由な発想から、営業はお客さまに面会する機会が多いためです。
最初は、不思議な感じでしたが慣れれば問題はありません。
社風により違いはありますが営業内でオールシーズン、ネクタイをしないのは一部の役員を除き私だけのようでした。
出版社もまちまちです(出版社の内情1)
全国に出版社は約3,200社ありますが、10人以下で運営している会社もあります。
1人で編集と営業を兼務しており、さらに社長業をおこなっている方もいます。
つまり出版社にこだわらなければ、約3,200社から出版するチャンスがあるといえるのです。
出版社は、総合出版社を除けば各社カラー(強いジャンル)があります。
営業が強い出版社、企画を求めている出版社、出版点数が多い出版社があるのです。
出版社により内情はまちまちですが、出版社に在職した体験からお伝えしますね。
総合出版社の一例ですが、機能は大きく分けて編集と営業の両輪です。
出版社により広告、宣伝、管理部門があります。
まず編集からお伝えします。
ジャンルは一般書(ビジネス書)、文芸書、ノベルズ、文庫、児童書、雑誌(週刊誌、月刊誌)などがあり、企画を作品に仕上げます。
各ジャンルに編集者がおり、年間を通じて出版する作品本数が決まっています。
締切に沿い、作品に仕上げて行くのです。
次に営業です。
取次営業、書店営業に分かれます。
出版社により取次営業(問屋)と書店営業を掛けもっている営業マンもいます。
取次営業は、新刊の配本先(書店)と配本部数を取り決めます。
他に注文書作成、フェア、セットの企画立案などがあります。
フェア、セットとは、主に出版社が既刊商品を組み合わせた商品群のことです。
企画により購入した読者へ、景品を準備することもあります。
書店へ陳列コンクールや実売数により1冊○○円の報奨金を支払ったり、読者に対して景品をプレゼントしたりするのです。
分かりやすい例として、新潮社が「新潮文庫の100冊」として毎夏フェアを開催しますね。
書店営業は、全国書店へ新刊および既刊の販売促進、フェアの受注、情報収集が業務です。
ネット書店、お客さまからの問い合わせにも対応をしています。
情報収集は、他出版社の近刊情報、書店の新規店および廃業店の情報、本の売れ行き動向をつかみ分析します。
出版社により、中部地区、近畿地区、九州地区などの主要都市に営業所や支店もあります。
広告部は、雑誌への企業広告の促進、本を通じて企業とのタイアップ企画があります。
書籍には本来広告を載せることができないため、雑誌が中心になります。
宣伝部は、新聞、雑誌を中心とした各メディアへの広告、本の販促物製作(パネル・POP・ポスター)が主要業務です。
「本自体の告知」と「本をより売り伸ばす」ためにおこなわれます。
管理部門は、在庫管理、受注管理、データ管理などがあります。
中小出版社は、「編集」と「営業」の両輪を中心にすべての業務に携わることもあります。
総合出版社は業務の専門性が高く分業されており、情報収集に長けています。
中小出版社は出版に関するすべての業務を学べる機会が多く、グロバールな視点で「モノ」、「コト」を捉えることができるのです。
どちらが良いとは、いえません。
経験則では、中小出版社で学んだことが総合出版社にて役立っていました。
総合出版社の営業マンでも、すべての営業業務を把握している人はいません。
「業務の多様化」、「流通の変化」、「販売方法がアイテムによって違う」からです。
出版社は本の出版が決まったから、販促準備に取り掛かります。
なせならば、本を売って会社運営ができるからです。
本は売って、はじめて著者と出版社の間でWin-Winの関係になるのです。
売れているビジネス書のキーワードをお伝えします
「売れているビジネス書には、傾向があります」と、書店店長がいっていました。
それは・・・・・
「簡単、時短、すっきり」がキーワードなのです。
現在、売れているビジネスの3つの要素です。
要約すると、わかり易く短時間で得たい情報を知ることができる本なのです。
いわば難解の上級者向けの本より、簡単な初級者向けの本の方が多いのです。
難解書を分かり易く、コンパクトにポイントだけまとめた本や、マンガで内容を伝える本があります。
実例ですが、マインドフルネスに関した本の販促をしました。
分かりそうで分からないため、図解本を購入したのです。
図解だと、かみ砕いて書いてあり、内容が伝わり易く理解を早めました。
どうしても知りたい内容や業務に関した場合は、理解を深めるために親本(原本)以外に解説書を購入する傾向にあるのです。
そこには、出版社がテーマにより入門書を出版されている理由からも分かりますね。
あと、売れているタイトルもお伝えします。
このキーワードはずっ~と、書店の棚を賑やかしています。
それはそれは・・・・・・
「一流」です。
タイトルに「一流」と入っている本は、売れています。
ここ3年くらい売れている「キーワード」です。
たとえば、「一流になるためのコンディション」、「一流の人がおこなっている気配り」、「一流の人がおこなってる習慣」、「一流の人がやっていることVSやらないこと」、「一流になる人Vs一流になれない人」などのタイトルがあります。
一流の判断基準は難しいのですが、読者が一流なりたいという願望に時代がマッチしているのですね。
本を通じて、一流になりたい方、あり方、振る舞い方などを知りたい読者のニーズがあるのです。
なぜならば、これだけ一流のタイトルが付いた本が出版されているからです。
販促をしてこのジャンルの本はすべて重版されています
出版において売れる3大ジャンルは、「男と女・ダイエット・お金」に関する本です。
そのため3大ジャンルは、雑誌の特集によく組まれているのです。
多くの読者は興味があり「知りたい」という、欲求があるのです。
さらに格言集やメンタルに関連した本や、起業本も売れるジャンルです。
たとえば格言集では、田中角栄氏や松下幸之助氏の関連本が、根強く人気があります。
時代を経ても受け継がれ、コンスタントに売れています。
売れている訳は、強いリーダーシップ層が求められているからでしょう。
メンタルに関しては、生活の指針やアドバイス、考え方などについて書かれた本が多く出版されています。
生きて行く上で、迷い、葛藤、マインドに関連した本です。
起業本も、多く出版されています。
混沌とした時代だからこそ、より一層仕事や自分自身を見直す方が増えてきているのです。
起業のハードルが、Web環境の整備によりおこない易くなったと考えられます。
多く出版されている本の中で、昨年から書店店頭を賑わかせているジャンルがあります。
販促をさせていただき、すべて重版を継続しているジャンルの本があるのです。
それは・・・・・
「株」関連書です。
「多くの方が、株に興味を持っているためか?」売れているのです。
株はお金に関する本ですので、売れる3大ジャンルに入ります。
売れる本は、個人差はありますが3大ジャンルを外していません。
過去の3大ジャンルの出版実績からも分かります。
出版社からすると、3大ジャンルは売れる可能性が高いですからね。
出版社は売れるジャンルやテーマを探しています。
3大ジャンルに限らず、出版点数は増えています。
それだけ、売れる本が求められているのです。
売れる本は、テーマと切り口次第により決まるのです。